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話数単位で選ぶ、2015年TVアニメ10選(話数ごと1000文字のコメント付き)

 こんばんは、年末あたりからめっきり寒くなりましたね。初参加となりますが、明日には本企画のトークイベントが開催されるということもあり、思い切って参加します。

 今回は、2015年中に放映された新作TVアニメから、10作品10本(順不同)を選ばせて頂きました。
 自分の基準はちょっとヘンですが「そのシリーズに興味が無い人が観たら、第1話から全部観てくれそうな話数」です。そのシリーズの魅力が一番伝わる話数、というイメージで選びました。

 この企画、実は既に集計が終わっておりますので、その結果も合わせて確認して頂けると嬉しいです。
「話数単位で選ぶ、2015年TVアニメ10選」投票集計: 新米小僧の見習日記

 以下、10選となります。記事の文字数がすごく多くなってしまったので、最初のまとめと、最後のコメントだけ読んで頂くのが良いかと思います。そのとき、スクロールしながら目についた部分を読んで頂けば、という記事になります。

これから挙げるタイトルのまとめ

・『SHOW BY ROCK!!』第6話「DOKIィッ!?水着だらけの海合宿(ハート)ですぞ♪」
・『放課後のプレアデス』第4話「ソの夢」
・『六花の勇者』第1話「地上最強の男」
・『Charlotte(シャーロット)』第7話「逃避行の果てに」
・『ご注文はうさぎですか??』第6話「木組みの街攻略完了(みっしょんこんぷりーと)」
・『血界戦線』第5話「震撃の血槌(ブラッドハンマー)」
・『ローリング☆ガールズ』第6話「電光石火」
・『パンチライン』第6話「大晦日だよ、明香えもん」
・『響け!ユーフォニアム』第8話「おまつりトライアングル」
・『GANGSTA.』第4話「NONCONFORMIST」

『SHOW BY ROCK!!』第6話「DOKIィッ!?水着だらけの海合宿(ハート)ですぞ♪」

みどころ:脚本と絵コンテの持ち味がシンクロした、ど真ん中青春バンドもの
脚本:待田堂子 絵コンテ:五十嵐卓哉 演出:山岸大悟 作監:新井伸浩、諏訪真弘

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 シリーズ構成の待田堂子さんの持ち味なのかはわからないが、本作の全くモジモジしない、きっちりサッパリとした語り口は、女の子グループの人間関係にフォーカスした、多くのアニメ作品のなかで、ひときわ輝いて見えたと思う。
 とりわけ印象的なのが、この第6話の始まり方だ。第5話の最後、主人公の最大の秘密がメンバーにバレて、これからどうなるんだろうと、こっちは一気に緊張する。しかし、第6話が始まった途端、太陽サンサンの浜辺で、メンバーは楽しそうにビーチバレーをしているではないか。こっちは完全に腰砕けである。しかし、こっちの予定調和的な構えを崩してから引き込む、とてもウマい手だと思う。
 話数の内容は、主人公シアンと、シアンのことが大好きなレトリー(はー、かわゆ…)が、仲直りするまでの話になっている。五十嵐卓哉さんのコンテは、とにかくパワフル・ど真ん中で、ホント「青春!」なんだな。海が舞台ということもあって、画面中の水平線がすごく意識されるレイアウトが多用されている。画面中に水平線があれば、カメラのアオリとフカンによる雰囲気の変化が、視聴者側にもダイレクトに伝わってくる。たとえば、前半は不安を煽る遠景のフカンで伏線を張ってからの、心情にぐっと寄るためのアオリの主観ショットなんかが、全体の流れの中で、バシバシとキマっていく。この竹を割ったような気持ちの良いコンテが、ウジウジしたところのない待田堂子さんのセリフ回しにすごく合うんだな、すげぇ良いものを観たという感じが残る話数。(10話のチュチュ回でもそうだったけど、待田さんの書くセリフは、もってまわったような言い方をしないんだ。)

 本作、3DCGのバンド演奏シーンでの当て振り(曲に合わせた手足の芝居)の精度が素晴らしい。まずはエンディング映像を見て欲しい。たとえばフレーズ終わりのドラム・ベースあたりの運指、メンバー間の視線芝居、楽器演奏者特有のクセの芝居付けの細やかさ、あるある感の確かさには、正直、非セルルック3DCGについての固定観念を打ち壊された思いだ。

放課後のプレアデス』第4話「ソの夢」

みどころ:細密画のような脚本と、お菓子細工のような表現力
脚本:浦畑達彦、森悠佐伯昭志 絵コンテ:春藤佳奈、佐伯昭志 演出:吉田徹 作監:西村真理子
 本作では、主人公達や家族との関係が多く描かれた。彼女らは何者でもないことの恐怖と、何者であるかを選ぶ重み・責任という、宇宙の広がりを前に怯えている。各エピソードの中でキャラクターたちは自分自身を、関係性という天体の運行の内側に、もう一度置き直そうと試みていく。
 序盤から終盤まで、表現の芯に迷いがなかったという意味では、本作は少しTVシリーズ離れしていた。その中でも本エピソードは「言わないことを言う」という矛盾めいたテーマに挑む意欲作だ。
 佐伯監督も脚本にクレジットされており、かなり練られた、凄まじい密度の脚本にまずは圧倒される。また、本編とシンクロする、難しい劇伴を実現させた浜口史郎さん(『TARI TARI』や『ガールズ&パンツァー』)もさすが。ととにゃんの透徹した、透明感のある美術も充分に堪能できる1本だと思う。

 本作のテーマ性と設定の密な絡まりが爆発する、7話「タカラモノフタツ 或いは イチゴノカオリ」、もしくはキャラクターの象徴的な描写という意味でひとつの到達点ともいえる、第8話「ななこ13」も素晴らしかった(し、第3話の宇宙遊泳で水着になるというサプライズも超よかった)が、話数に流れる空気の瑞々しさと、意欲的な表現に惹かれて、第4話を選んだ。

赤羽さん(@akabane55)の感想に素晴らしいものがあった。終盤のセリフのネタバレになるのでリンクに留めます。
https://twitter.com/akabane55/status/622012071559860225

六花の勇者』第1話「地上最強の男」

みどころ:最も難しいジャンルである、ファンタジーアニメ全体の第1話のベスト
脚本:浦畑達彦 絵コンテ:高橋丈夫 演出:さんぺい聖、重原克也、末田宜史 作監石原恵治、近藤源一郎、橋本英樹、小野田貴之、佐藤麻里那 総作監:小磯沙矢香

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 実は本作、第1話を観たあとに僕らが「こんな話になるだろうな」という作品ではなくて、それが一種のサプライズになっているのだけど、ともかく第1話の「これから勇者たちの旅が始まる」という感じのワクワク感、壮大な感じが素晴らしい。
 それにしても、この第1話は、あらゆるセクションがベストワークを発揮しており、衝撃的な完成度となっている。たとえば下記のような立役者がいる。
 脚本について。浦畑達彦さんという脚本家が、ちょっと入り組んだ世界観の第1話の脚本を書くとき、僕はその世界観の提示の鮮やかさとイベント配置の妙技に、いつも舌を巻かされる。そして本作も、例外ではなかった。
 音楽について。大島ミチルさんは異世界ファンタジー系の劇伴を担当することが多いのだけど、本作でも縦横にペンをふるってくれた。特に第1話ラストでかかるテーマの壮大さ、王道ファンタジー感は素晴らしい。
 また、逃亡劇と同時に始まったこの曲が、ラストカットで終わる、この合わせについては、最高にスタッフの狙いどおりという感じだ。(普通は音響監督の岩浪美和(よしかず)さんの仕立てだが、もしかすると、絵コンテを劇伴を聴きながら描いたということもあるだろう。)
 背景について。本作は背景美術に「ととにゃん」というアニメ背景を描くスタジオが入っている。この会社は正直、僕の推しスタジオだ。アニメの背景は、雲をどのように描くかという部分にすごく特徴が出る。多分、雲というものは建物のように「面」ではなく、水蒸気や風といった「空間」によって成り立つものを絵にするからなのだと思う。ととにゃんの背景で特徴的なのは、ピンクを基調とした雲だ。第1話のラストシーンでも、朝焼けを逃亡する2人のバックを、朝日による大気の温度の上昇で出た霧が、低く流れていくのだが、この美しさをぜひ見て欲しい。そこから、森を抜けたラストカットの青空に浮かぶ雲へとイメージは繋がり、時間経過が背景の中に表現されている。最高だ。また、中南米のマヤ・アステカ文明をイメージの源泉とした美術・デザインも冒険的ながら、赤・白を基調にうまくまとめてあって、それが森と空に映えるんだな。
 また、これらをまとめ上げた絵コンテ・演出陣にも、拍手である。絵コンテ・レイアウト面では、密室劇をやった第5話が白眉だった。
 少し話は外れるが、後半でストーリーの中核に入ってくるフレミー・スピッドロウを演じた悠木碧さんも、鮮烈な印象を残した。たとえば2015年は『ユリ熊嵐』の百合園蜜子など、複雑なパーソナリティを持った役どころが悠木碧さんに配されることが増えてきた。これを担っていたのが昔は沢城みゆきさんだったのだが、黒沢ともよさんなど、理屈優先でキャラクターを解釈したうえで演じる、女性の役者さんのパフォーマンスに、驚かされることが多いと思う。

『Charlotte(シャーロット)』第7話「逃避行の果てに」

みどころ:絵コンテ・演出による時間・空間の感覚の自由自在な操作のテクニック
脚本:麻枝准 絵コンテ・演出:篠原俊哉 作監:大東百合恵

 個人的なところにグッときて、特別な話数になったのが本作の第7話だ。
 本作は、映像が表現するフォトリアリスティックな美術・肉感的な芝居のリアリズムと、脚本が志向しているファンタジックで思弁的なリアリズムが、しばしば衝突してしまっていた部分があると思う。恐らく、そこに戸惑った人も多かったろうと思うし、僕もそのひとりだ。
 ただ、その2つが渾然一体となるような話数として、僕はこの第7話にガツンとなった。

 急転直下の第6話を受けて、舞台は安全で整然とした学校から、猥雑な繁華街とバイパス周りに移る。時間もシチュエーションも、主人公の眺める白けたテレビのザッピングのように次々に切り変わっていき、現実感がない映像になっていく。
 しかし、ヒロインの突然の登場によって、それまで変拍子を打っていた物語上の時間も、そして主人公の時間も、まるで電気ショックを受けたかのように、それまでの時間と空間に戻り、また整然としたリズムを刻み始める。

 絵コンテと演出によって、このジェットコースターのようなテンションとリズムの上げ下げをコントロールした篠原俊哉さんの見事な采配を、ぜひ観て欲しい。主人公を演じる内山昂輝さんのザラザラした剥き出しの芝居の振れ幅も素晴らしかった。

 下記、自分が最終回後の全体的な感想。ネタバレなのでリンクに留めます。
https://twitter.com/yokoline/status/647812647212072960
https://twitter.com/yokoline/status/647828804136628224
https://twitter.com/yokoline/status/647837433384452096
https://twitter.com/yokoline/status/647843102074368000

ご注文はうさぎですか??』第6話「木組みの街攻略完了(みっしょんこんぷりーと)」

みどころ:本作におけるチノの情動のターニングポイント。あとラストカット
脚本:ふでやすかずゆき、井上美緒 絵コンテ・演出:博史池畠 作監:油谷陽介、杉本幸子、仁井学、川妻智美、錦見楽、今田茜、松尾亜希子、りお、永吉隆志 総作監佐々木貴

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 僕はこの話数で、やっと「ココアさん」を理解し始めたという思いがある。というか、この話数で『ごちうさ』は第2の出発を迎えるわけなんだ。
 どういうことか。『ごちうさ』はココアのホームステイものという形をとってはいるけど、基本的にはチノちゃんの情動が中心にある。チノちゃんは小さい頃から母親がいなかったため、お店で働いたりと、しっかりせざるをえなかった。父親はバーカウンターの向こうから出てこず、祖父はアンゴラウサギ(いや、この謎は果たして明かされるのか)のままだ。 ※これは重要で、つまり『ちびまる子ちゃん』のようなお爺ちゃんっ子になる道が、あらかじめ塞がれている。
 そういうチノちゃん一家のかなり不可思議なバックグラウンドがあり、そしてチノは甘え方を知らない子供である。そこに「お姉ちゃんと呼んで、甘えていいよ!」と飛び込んできた人間がいる。チノも反発するが、邪気のないココアに、チノも心を開いていく。
 そこで2期6話となる。盲目的に「私が姉であること」に固執してきたようにも(僕には)見えたココアのバックストーリーがやっと明かされた。姉であるモカに対する、(微笑ましい程度の)コンプレックスをココアは認め、誰かの取り合いの意地ではなく、ドメスティックな押し引きの関係性へと、ゆっくりと進んでいく。
 それを見たチノも「ぶつかり合っていいんだ」と言葉を洩らす。これはどういうことか。チノもココアからのアプローチをかなり受け入れているが、ここからは自分がココアに歩み寄る番だと、そして、そうするべきだと本人は感じている。それは次の第7話でウイスキーボンボンで酔っ払うというスーパーベタ(だが最高)なシチュエーションでも僕らには伝わるのだが、つまり、チノは自分からココアにアプローチすることが、一種の攻撃的な態度になってしまうことを怖がっているわけなんだ。素直になれない自分のトゲのある言葉で、ココアが愛想を尽かさないだろうかという不安が、ココアとモカの関係をロールモデルとして解消される、最初の大きなきっかけが、この6話というわけだ。
 本作、ちょっとシリアスなことが起こると、すぐにキャラクターも映像も自分自身で茶化してはぐらかしてしまう部分があって、僕らも踏み込めない感じがあるんだけど、この話数は今までにない踏み込み方をしていて、新鮮だったと思う。また、その緩急というか、お茶目なハズし方みたいなところをうまくコントロールした博史池畠さん(『それが声優!』や『ロボットガールズZ』の監督)の理解度もすごく深いと感じた。ラストカットのサブタイトルの出方もオシャレで、すごく「良いものを観た」という強い感慨が残る話数に仕上がっている。

血界戦線』第5話「震撃の血槌(ブラッドハンマー)」

みどころ:2015年で最も美しいラストシーン、この奇跡的なカッティング
脚本:古家和尚 絵コンテ:松本理恵 演出:孫承希 作監:長谷部敦志、村井孝司、長野伸明(メカ) 総作監杉浦幸

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 改めて観直してみて、やはり「最高」であることに気付いてしまった。いや、気付かされてしまったと言っていい。(どうした)
 ここはただ、ラストシーンのことを話したい。この話数、序盤にはホワイトの不機嫌があり、ドグ&ハマーとアリギュラのディスコミュニケーションがあり、レオにとってホワイトは、結局のところ、他人の異性であることが強調される。しかし、結果的にはアリギュラに発破をかけられたかたちで、レオはホワイトを強引に映画へ連れ出すこととなる。
 何がやってるのかも知らずに入っただろう映画の最中、レオは、ホワイトの瞳が涙を湛えていることに気付く。ここが凄いんだが、話数を通じてずっと遠くから撮っていたカメラが、グッとホワイトの顔に限界まで近付く。その顔に、悪いと思いながらも吸い付けられるレオの顔にもカメラは寄り、その場の雰囲気がくっきりと変わるのが、僕らにも手に取るようにわかる。
 映画が終わり、レオとホワイトは2人、明かりの消えたスクリーンの前に座っている。ホワイトのしくしくという泣き声が響く。気まずい雰囲気の中、レオはいつものようにおどけた雰囲気で場を取り持とうとするが、途中で思い直して、自分のことを語り始める。不器用な語りだ、でもホワイトにはそれで充分だ。
 ここからの流れが惚れ惚れとする。カメラは話を終えた2人の後ろ姿を撮っている。自分の過去を話して慰めようと奮闘してくれたレオに対する好感から、ホワイトはレオの方に座り直すと、ちょっと乱暴に肩から抱き寄せる。2015年で最高の歌のイントロが始まると同時に、カメラはじわじわと引いていく。画面には映画のスクリーンが丸ごと収まり、2人を祝福するような赤い花が、画面の裾を埋める。そうして映像は、2015年で最高のエンディング映像へと、そのままなだれ込んでいくのである。
 このラストシーンで最も素晴らしい仕掛けは、画面内に映画のスクリーンというもうひとつのフレームを仮想的に設置し、そこに2人を収めることで、このシーン自体を「額に入れる」という部分だ。レオが当初夢見ていたようなロマンスではないが、ホワイトとの幸せな友情とも好意ともつかない、しかしとても幸せな関係が、僕らの見ている前で、フレームの中に定着され、そしてそれはこの瞬間だけ「映画」になるのだ。
 最終回を見終えた僕らが、このシーンを見返してみると、この幸せな数秒間に、また違う哀しさを覚えてしまうのだが、しかしレオはこれから何度となく、この一瞬を思い返すことだろうと、僕らは想像する。最高でしかない。

 松本理恵監督が『京騒戯画』第1話で見せたような、モノローグによる過去語りとロング・長回し・FIXが存分に楽しめる第11話、そして予定の3ヶ月後に放映された、ほぼ劇場版ともいえる第12話(最終話)の絶唱のようなダイアローグも素晴らしかったが、上記のワンシーンのカッティングの奇跡にやられてしまったので、第5話を選んだ。

『ローリング☆ガールズ』第6話「電光石火」

みどころ:本作が目指したであろう空気感が最も幸せなかたちで実現した話数
脚本:むとうやすゆき 絵コンテ:村田俊治、佐藤陽 演出:若野哲也 作監:長谷川早紀、佐藤誠之 総作監:北田勝彦 美術監督:柴山恵理子、河野羚

 こないだ、2クールに一度は、イキのいいライブシーンを観たいね、ということをSkypeで話しながら、本作の第8話を観て、僕はすごく感動した。確かに第8話は素晴らしいし、超アツいのだが、個々のカットで各アニメーターが気を吐きまくっており、またBパートのコンテも野趣に溢れているので、本作の目指した持ち味という観点だと、すこし全体からは浮いた話数になっていると思う。
 そう考えて、いったん全体をフカンしてみると、やはり第6話のカットの繋ぎ方の滑らかさや、シーンに対するカットの貢献の方針の明白な感じとか、映像としてすごく好ましく感じられたことが印象深い。
 下アゴの解釈や髪の描線の丸みや瞳まわりの処理など、冒険的で現代的なキャラクターデザインを選択した本作にあって、そのエッジィな思想を動画にまで、そして全編通して行き渡らせることは、確かに難しい部分があったかもしれない。しかし、この第6話はキャラクターデザインの躍動感が話数全体に浸透しており、すごくコントローラブルなところで色々なものが管理されていた。プロダクトとアートの真ん中をきっちりと、キャラクターを守りながら渡り切った話数として、僕は鮮明に記憶している。素晴らしかった。

パンチライン』第6話「大晦日だよ、明香えもん」

みどころ:2015年で最も「エキサイティング」な絵コンテ・演出。必見
脚本:打越鋼太郎 絵コンテ:小林寛 演出:清水久敏 作監:桑原幹根、伊藤憲子、塚田ひろし

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 『パンチライン』の最も大きなクライマックスが、この第6話に設置されていることは、誰も疑わないと思う。この話数は、いわゆる「ビジュアルノベルの最初のバッドエンド」回なのだ。
 しかし、それを考えずともこの話数の絵コンテ・演出は、2015年で最もエキサイティングだったという確信がある。終始、カメラのテンションが高く、あらゆるカットに仕掛けがある。特に、ラストの会話劇でのカメラワークは、ターニングポイントに、雪を振り落とす枝を見せてからピン送りで後景の主人公に寄せるという、大変アクロバティックな演出ながら、非常な洗練を感じた。赤い空に白い雪、青い肌という画面構成もビビッド・アバンギャルドながら、シーンの緊張感にハマっており、大好きである。野性的で攻撃的な絵コンテが楽しめるという意味で、この話数だけ観てもらっても、ノれる人は多いと思う。
 また、この話数は作画的にも恵まれており、たとえば前半のアクションシーンについては、画面のケレンみではなく、きちんと空間の作り方の要所を押さえたレイアウトが素晴らしかった。
 シリーズ全体としては、時制がポンポン飛ぶので、こちらのテンションをどこに合わせて良いのか分からなくなり、ノリきれない部分もあったし、キャラクターのバックグラウンドにもサプライズがあるので、共感がリセットされてしまう部分などもあったが、やはりこの話数がきちんとベスト10に入ってくる。

『響け!ユーフォニアム』第8話「おまつりトライアングル」

みどころ:言葉も凄いが、言葉を越えた場所に到達した。僕らは語る言葉を持たない
脚本:花田十輝 絵コンテ・演出:藤田春香 作監:秋竹斉一
 若々しく、圧倒的にリリカルで、夢のような話数だったと思う。
 本作は、本当にすべての話数がため息をつくような素晴らしいラインナップだった。本作のストーリーには大きな軸が3つあって、ひとつめが第10、11話をクライマックスとする吹奏楽部の物語、ふたつめが第12話をクライマックスとする主人公久美子の物語、そしてみっつめは、この第8話をクライマックスとする、久美子と麗奈の物語である。
 ふつう、1クールもののアニメであれば、どれかを初めから後景化して、際立たせたいものを残すだろう。しかし、この3本の全てを、傑出した仕上がりで実現してしまったのが、京都アニメーションというアニメスタジオのベースにあるスタッフたちそれぞれの力であることは、まず間違いない。また同時に、演出陣の意図に対して各セクションが、ふつうに言われている職分を越えてでも、ひとつの完成画面へと先鋭化させていくスタジオ独自の気風ともいえる部分が、各画面の完成度を、まるで1人の人間が全てを作ったかのように粒の揃った、とんでもないものへと、着地させているように思える。

 今回は、3本のストーリーラインのうち、久美子の物語と吹奏楽部の物語は、話数だけ切り抜くことは難しいので、第8話を選んだ次第ではあるが、第8話を観たときの「俺はこれを観てしまって、明日から普通に生きていけるのか」という恐れと、放映されたときのTwitterのみんなの熱狂は記憶に残っている。
 また、この話数は「本作は『百合』か、そうでないか」という論争も呼んだ。第9話で麗奈が男性の顧問の先生へのきちんとした恋愛感情を開陳するため、余計にワシらの心もちは錯綜してしまったのだが、ともかく視聴者の実存に対してハンマーを当ててくるような作品だったことは間違いない。
 なお、第5話のAパート終わりのシズル感、第6話のきらきらぼしの良さ、第7話の3年生の微妙な関係などもお気に入りだっし、また本作については、下記の記事も書いた。
吉川優子の、流すはずじゃなかった涙について ~『響け! ユーフォニアム』11話~ - あにめマブタ

GANGSTA.』第4話「NONCONFORMIST」

みどころ:リッチなレイアウト、コンテワークと撮影の空気感の密度、凄まじい
脚本:猪爪慎一 絵コンテ・演出:安彦英二 作監:岡崎洋美、竹田逸子、服部憲知、田寄雅郁、北村晋哉

 今年の安彦英二さんは、フィギュアスケートを丹念に描いた、非常にチャレンジャブルな短編『ENDLESS NIGHT - 日本アニメ(ーター)見本市』キャラデ・作監としての活躍が目立った。絵コンテ・演出のキャリアは短いらしいのだけど、本作の転換点となる素晴らしい第4話を届けてくれた。
 もしや、演出修正をかなり入れたのだろうか、レイアウトの密度とレンズ感のリッチさ、カメラワークが総じて素晴らしい。主人公2人の過去の湿ったような陰鬱さを、霧と、続いて降り始める雨によって暗示する。
 そして、血は水よりも濃いという。水で繋がり、そして血によって、元には戻れない場所へと踏み込んだ2人の関係を、妥協のない画面づくりで見事に描いてみせた。勿論、撮影も凝っていた。
 本作全体の見どころとして、聾唖者のニコを演じる津田健次郎さんの芝居(専門家の指導が入っているようだ)に加えて、1話・2話の手話作画、そして長崎行男さんの緻密な音響空間演出に、全く別の高い場所へ向かおうという意志が感じられた。

 放映途中にも関わらず、制作スタジオマングローブの倒産と、それに伴う3巻以降のディスクメディアの発売延期(4巻以降は発売未定)という憂き目に見舞われた本作。それが実制作に全く影響しなかったわけではないだろうが、目指している場所の高みを、製作者側と視聴者が確かに共有できるような場面は、何度もあったと思う。
http://s.animeanime.jp/article/2015/10/15/25313.html

最後に、10選企画への参加のススメ

 今回の記事を書くにあたって、Twitterでアンケートを取らせてもらいました。
 質問は「TVアニメ10選の企画に参加したいときの一番の障害はなんですか」で、最多得票は「放映当時の感想を思い出せない」でした。
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https://twitter.com/yokoline/status/676756001144504320

 僕がこの記事を書くにあたり、過去の話数を思い出すときのメモにしたのは、HDDレコーダー(torne)の「ロック」機能でした。年明けから、良かった話数については消去防止のロックをかけておき、年末にロックがかかっている話数から10本を選びます。
 また、Twitterをやっている人は、アニメの感想に作品名と話数に加えて、たとえば「#10選候補」などのタグを付けておくことで、年末にTwitterのログ(連携サービスを使うとラクです。
twilogなど)をタグ検索すれば、同じような見つけ方が可能だと思います。
 他には、年末が近付いたところで、同好の士とSkype経由の上映会をやってみるのもオススメです。お互いに「この話数が良かった」と教え合い、残しておいた録画や配信を同じタイミングで再生します。Skypeで「このカットが良い」「このシーンは別の話数と対応関係があって」などと喋りながら鑑賞するのが、とても楽しい。観たことない話数でも、こんな作品があったのかと驚かされ、次のクールへの意欲も高まります。

 今回、話数ごとにがっつり書いていったことで、すごく時間がかかってしまいました。やはり、次回からは、話数あたり150文字くらいでまとめるか、好きな話数については個別に記事を書くというのが必要だなと痛感しました…。
 それでは、今年もよろしくお願いします。

 本日は以上です。