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『TENET テネット』感想、4重の○○(ネタバレあり)

テネット、俺はテネットの話がしたいわ…。

IMAXで観る『TENET テネット』、
冒頭の引き込まれ具合はちょっと怖いくらいじゃなかったか?
自分がおかしくなったのかと思ったよ。

ファーストカットはコンサート会場。指揮棒カンカン→静寂…からのテロ発生!
アメリカ人を起こせ」で寝起きの主人公が、なぜか特殊部隊と一緒に突入する。
しかしそれもフェイクで…という冒頭なんだけど、あれは情報量の津波だよね。

それはおそらく主人公の
「頭フル回転させて、どうにか状況に食らいついていく」という立場に
乗っかってもらいたいがためなんだろう。
その目論見は大成功しているけど、
こっちは冒頭5分で物理的に息切れしているよね。
ノーラン監督は俺たち観客の理解力を過大評価していないか…?

※下記、画像は公式サイトと予告編より
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▼何者かのスタンド攻撃を受けている

 パラノイアックな細密画のような詰め込みの手つきは、あらゆるシーンに及ぶ。
雑踏を足早に歩きながら段取りの説明、くらいならまだ良い方で、
中盤以降は「もう慣らし運転は終わっただろう?」と言わんばかりのように、
観客は作戦行動の真っ只中に放り込まれていく。

 しかし本作の最も恐ろしいコンセプトは、全く感覚的ではない「時間の逆行」による
不条理現象が次々と発生し続けることだ。
その間隔はあたかも『ジョジョの奇妙な冒険』の
「何者かに『スタンド攻撃』を受けている…!」の不条理に近い。
ここでは不条理と言ったが、
条理つまり理路がなく当たり前なのだよね、この世界では理路の向き先が逆向きだからである。
僕らには「結果」だけが見せられて、「原因」は映画を観続けた先にしかない。
つまり、本作は前半の「問題編」と後半の「解決編」に分かれたSFミステリ小説なんだ。

▼「エモ」なの? 「アハ体験」なの?

 なんと驚くべきことに、本作は「エモ」の映画だった。

 上記の通り、本作は非常に複雑なギミックの集合体だ。
しかし、俺たちはノーラン監督が口に突っ込んでくるホットドッグの大群をさばきつつ、
しかしエモに泣かなければならない。

 僕は情報の整理に追われた結果、
エモの重要な伏線を押さえておくことに失敗していたみたいだ。
というのも、エリザベス・デビッキ演じるキャットのストーリーラインの最も重要な伏線である
「夫と浮気していた女は、私が嫉妬するほどに自由な女性だった」が
夫の支配から開放された未来の自分だったという、
あとになってみれば非常にあからさまな伏線回収を、
ぽんずさんのツイート(↓)に教えてもらうまで、全く気付かなかったので…。

 キャットがクルーザーから飛び降りる直前、
キャットを斜め下から捉えたアオリのショットがあるんだけども、
自分は誇張抜きで、完璧に美しいと感じたよね。
あれ撮れたら、映画として「勝ち」だと思う。

 作戦行動の折返しきっかり5分でビルが上下逆で爆縮→爆発するカットもすごいけど、
本作の最も成功しているカットはあれだよ。
だからこそ、エモの伏線に初回で気付けなかったのは悔しかったなぁ…。
多分これだけは、ノーラン監督は初回で気付いて欲しいやつだと思って仕込んだやつだもんな。

▼映画におけるメタ的な仕掛けについて<1>

最後は、ちょっとマニアックな視点のことを話したい。

映画というメディアが「映画」という形態をとっていることにより、
映画制作者はトリックを仕掛けることができると思う。

たとえば本作は、満員のオペラハウスから始まるけど、
これは僕らが満員の映画館で椅子に座って映画を観ているという状況が、
そのままスクリーンの中に移動しているわけだ。
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作中ではテロが起こり、観客たちは催眠ガスで強制的に眠らされる。
突入してきた主人公は観客たちが寝ている座席を走り抜けていくが、
これも我々が暗い空間で映画を観ていて、
自分の周りがよく見えないという現実を「ハック」することで、
異質な現実感を持たせているかのように思えた。

▼映画におけるメタ的な仕掛けについて<2>

もうひとつ、大きなギミックがある。

映画脚本の支配的なメソッド「三幕構成」においては、
「ミッドポイント」と呼ばれる、一種の折返しポイントを設けるのが常套手段だ。
ミッドポイントとは、映画の「実際の尺」の本当に真ん中に設けておき、
最終的に解決しなければならない「本当の問題」が登場する、ストーリー上の転換点だ。

本作においては、このあくまで概念上の「折返しポイント」を、
驚くべきことに、作品世界の中に実際に設けてしまっているのである。
それが、これは本編の開始から70~80分ごろ登場する、
悪役の武器商人、アンドレイ・セイターのフリーポートに設置された「回転ドア」のシーンだ。

主人公はここでセイターと対峙し、
キャットを助けるために、時間が逆行している世界に入る「回転ドア」に突入する。
中で折り返して反対側から出てきた主人公は、時間を巡る戦いのことを知る。
ここで主人公の大きな動機が「セイターを倒してキャットを助ける」に確定するため、
映画脚本上のミッドポイントとなる。
本作ではミッドポイントが「回転ドア」として実在しているうえ、
しかもこれを起点に、時間は逆行し、どんどんさかのぼっていく。
最終的には冒頭のオペラハウスと同じタイミングで発生していた、
ロシアの爆発現場で終結することになる。
つまり、あの「回転ドア」が作品世界の時間上でも「折返し」になっているのである。

映画の尺、三幕構成、作品時間、画面レイアウトで作られた
この「4重のミッドポイント」こそが、
『TENET テネット』を前代未聞のメタ映画にしているといえると思う。

ノーラン監督が一番やりたかったのは、これかもしれないと、
映画館で腕時計を確認したとき、大興奮してしまった。

▼最後に

僕らは現在を漫然と生きているような気がしていたけど、
未来からの逆風を受けて飛ぶ、飛行機のように生きているという時間感覚を、
本作を観ているときに体感していたような気もする。

ともかく、ニールを演じるロバート・パティンソンがキュートすぎた。
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▼参考にした記事

これ(↓)も10000字あってすごいな…。とはいえ、
難しいところがきちんと図解されているから、さらっと読めてしまう。
最初に読むべきはこれかな…。
note.com

この記事(↓)は「TENET」というタイトルについて深堀りしている。
自分は爆弾の「TNT」に「E」(相対性理論の式のE(エネルギー))を入れて、
原子爆弾を意味する造語にしたのかと思っていたけど、いろいろ新情報があって面白い。
filmaga.filmarks.com

カーチェイスのシーンで起こったことがマジで複雑すぎて分からなかったんだけど、
この記事(↓)読んでからもう一度観に行けばわかるかも。ここはお手上げ…。
note.com

 本日は以上です。