あにめマブタ

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『TENET テネット』感想、4重の○○(ネタバレあり)

テネット、俺はテネットの話がしたいわ…。

IMAXで観る『TENET テネット』、
冒頭の引き込まれ具合はちょっと怖いくらいじゃなかったか?
自分がおかしくなったのかと思ったよ。

ファーストカットはコンサート会場。指揮棒カンカン→静寂…からのテロ発生!
アメリカ人を起こせ」で寝起きの主人公が、なぜか特殊部隊と一緒に突入する。
しかしそれもフェイクで…という冒頭なんだけど、あれは情報量の津波だよね。

それはおそらく主人公の
「頭フル回転させて、どうにか状況に食らいついていく」という立場に
乗っかってもらいたいがためなんだろう。
その目論見は大成功しているけど、
こっちは冒頭5分で物理的に息切れしているよね。
ノーラン監督は俺たち観客の理解力を過大評価していないか…?

※下記、画像は公式サイトと予告編より
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観た人の9割が知らない、透明人間の本当の正体(映画『透明人間』(2020)感想)

 映画『透明人間』(リー・ワネル監督)、観ました。
結構、落ち着いた邦題だなと思ったら、本当に『透明人間』(1933)のリブートらしいですね。
全体的にソリッドな仕上がりで、
たとえば『ターミネーター2』を思わせるモンスターものとしてもパワーのある作品になっていたと思います。
もちろん、主演のエリザベス・モスが心労で顔つきが変わっていくあたりの芝居の迫真性もすごかった。

 タイトルに書いたように、本作はちょっと手の込んだ描き方をしていて、
もちろん優れたサスペンス・スリラーではあるんですが、
それに止まらない批評性があるな、というところが本作のお得なところだと思いました。

 今日は短い記事なので、このあとすぐ内容のネタバレしていきます。
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キャラクターの生まれる渚(TVシリーズ『SHIROBAKO』の映像・音響演出)

この記事は、2015/8/14のコミックマーケット88で頒布された
『アニメクリティーク vol.3.0 特集 蟲・生物・人工物/アニメにおける〈音〉』
に寄稿した文章「キャラクターの生まれる渚(『SHIROBAKO』の映像・音響演出)」を再録したものです。(一部、ブログ用に改稿しました)
↓当時の告知記事
『SHIROBAKO』の音響演出について寄稿しました(アニメクリティーク新刊(C88)) - あにめマブタ

目次

  • SHIROBAKO』のリアリティ(現前性)の「ずらし」
  • はじめに:アニメ映像における絵と音の同期について
  • シーン1:キャラクター表現の「現前性」について
  • シーン2:現前性は、絵と音とが高度に統合されたキャラクター表現から生まれる
  • シーン3:私的なキャラクター表現の困難
  • シーン4:観客が知る私的なキャラクター
  • 本作のキャラクター表現が行き着いた場所

SHIROBAKO』のリアリティ(現前性)の「ずらし」

 2014年から2015年にかけて放映されたTVアニメ作品『SHIROBAKO』は、TVアニメ制作をモチーフにした作品だ。そのため、登場人物たちは、自分自身がアニメのキャラクターでありながら、同時に、アニメのキャラクターをつくり出す立場にある。
 そのような背景から、作中のキャラクター表現は、そのキャラクターが存在するストーリー上の階層構造に応じて、段階的に演出されることとなった。しかし、そのキャラクター表現の階層構造は固定的なものではなく、演出家の意図に応じて流動的に変化することで、独自の効果を上げている。
 本稿では『SHIROBAKO』の音響を含めたキャラクター表現に着目することで、このアニメの中でキャラクターという虚構がどのようなリアリティ(現前性)を持ちえるのかを検討する。

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たつき監督のキャラクター演出と、赤い木の悪魔的なデザイン(『ケムリクサ』最終話)

毎クール、最終回をリアルタイム視聴したくなるアニメが1~2本出るんだけど、『ケムリクサ』はそれでしたね。
界隈の盛り上がりに押されて、最終話放送週の日曜日に配信で追いついたクチだったんだけど、すごく楽しませてもらえた。

これはみんなの語り草だけども、最終話直前、11話のエンディング映像の演出にはズガンときた。
本作のエンディング映像は、元の6姉妹がだんだんと脱落していく、本編スタート前の物語を、6本の線とシルエットだけで表現するものだった。

!!ここから『ケムリクサ』最終話までのネタバレします!!

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話数単位で選ぶ、2018年TVアニメ10選

今年が終わる5分前ですが、投稿を…。

●一覧:

●参考リンク
「話数単位で選ぶ、2018年TVアニメ10選」参加サイト一覧: 新米小僧の見習日記

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『SSSS.GRIDMAN』ダブルヒロインのキャラクターデザインがテクい

みんな、『SSSS.GRIDMAN』観てる?
仕掛け満載で、根掘り葉掘りで楽しめそう。

今日は、本編のヒロインのキャラクターデザイン、めっちゃ良いよね! ていう話。

ダブルヒロイン「宝多六花」「新条アカネ」のデザイン

本作の女性キャラのプロポーションは、足の太さや腰の高さなど、
パーツ単位でかなり明確に差別化がはかられているんだけども、
特にメイン2人、「宝多六花」「新条アカネ」のキャラクターデザインは、
思わぬところが工夫されてておもしろい。
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六花「Aライン」

黒髪で白服の六花は「Aライン」のデザインだ。

頭頂部からストンと落とした髪のラインが細い肩口に繋がり、
カーディガンの広がりに沿って、折り返しの大きい裾まで繋がっている。

重心は下方にある。
筋肉質な尻と太もも、
そして巧妙にもスカート丈と高さを合わせたカーディガンの裾だ。

アカネ「∀ライン」

さて、紫髪に紫髪のアカネは、
六花とは逆に、Aの逆向き「∀ライン」のデザインになっている。

重心は不安定にも、上方にある。
大きな胸と、思い切り着崩したレイヤード*1のパーカーで作られる、大きな肩だ。

これを強調するように、
パーカーの黄色いジップと、裾の塗分けはどちらもV字。
下がってきたラインはそのまま、高い腰から伸びる針金みたいに細い脚につながっている。

対称的なシルエット

六花とアカネのキャラクターデザインは、
脚の太さや腰の位置など、パーツ単位でも差別化されているほか、
プロポーションや着こなしをうまく使い、
特徴的で対称的なシルエットにデザインすることで、
キャラクターが多く映る場面や、遠いところから映したショットのなかでも、
メインヒロインが埋もれないように工夫されている。

また、映る機会の多い2人が「A」と「∀」という正反対のシルエットをとることで、
対照的あるいは似た部分のあるパーソナリティを強調し、
更には、映像自体のメリハリまでも演出しているわけだ。

本作、デザイン面に小ネタが散りばめられているらしいのだけども、
こういう「アニメ映像上でアクションするキャラクターをデザインする」という
ベースの地力の部分でも、高いパフォーマンスを発揮してくるので、すごいと思う。

また、ED映像で示唆されているように、
六花とアカネには浅からぬ因縁がありそうだ。

なぁ、「A」と「∀」は、並ぶと絵になるぞ…!(これを言いたかった)
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本日は以上。

*1:あれ、これ裏地が見えてるのか?

あなたは死体を埋めたあとの人間の肉声を出せるか(声優さんの芝居の上手さについて)

【目次】

声優さんの芝居について語るのは難しい

今日は、アニメの声優さんの芝居について話したい。

こんにち、たくさんの声優さんがたくさんのキャラクターを演じてくれているんだけども、
実のところ、「お芝居の上手さ」を文章で説明するのはすごく難しい。
ただ、「この芝居がすごく良かった」ということを、
どうにかして文字にして残すことはできないだろうか。

「リアル」な芝居=「っぽさ」の救い上げ

「芝居のうまさ」とは「リアル=現実に即している」だと考えたとき、
宇宙人や殺人犯の芝居ができる人間を探すのは、かなり難しい。
そもそも、見ている僕らが、それがリアルなのかどうかが判断できなくなってしまう。

おそらく、僕らが考えて「それっぽい」と感じる部分が多く含まれていれば、
僕らはそれをリアルだと感じてしまうのだ。*1

では、アニメの芝居について、そのリアルさは、
具体的にはどのようなかたちで僕らのもとに届くのだろう。

声優、黒沢ともよ

『響け! ユーフォニアム』シリーズの黄前久美子役でブレイクし、
今期の『宝石の国』でフォスフォフィライト役を演じている
黒沢ともよさんの芝居には、ちょっとゾッとするほどの説得力がある。

今回紹介したいのは、高校吹奏楽部を舞台にしたアニメ『響け! ユーフォニアム』より、
2期11話「はつこいトランペット」のワンシーンでの黒沢ともよさんの芝居だ。

少し、このシーンの背景を説明しよう。
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黒髪ロングの子、麗奈というのだが、この子は吹奏楽部の男性顧問にガチ恋している。
そして、麗奈と中学からの妙な因縁で結ばれているのが、髪の毛カールの久美子だ。
この二人の奇妙な関係性が、本作の大きな焦点になっている。
※この久美子を演じているのが、黒沢ともよさんだ。

さて、1期1話から露骨にほのめかされている情報ではあるのだが、
申し訳ない、少しストーリーのネタバレをする。

麗奈が恋している男性顧問、実は、最愛の奥さんを亡くしている。
久美子はひょんなことからそれを知ってしまうのだが、麗奈に悪いので黙っていた。

このシーンでは、やはり偶然からこのことを知ってしまった麗奈が、
久美子を夜の山中に呼び出し、山の頂上でモヤモヤをぶつけてくる。

自分が声優なら、どう演技するか?

このあと、実際の映像を観ていただくのだが、その前に考えていただきたい。
自分が声優なら、セリフをどのように言うのか、だ。

麗奈は事実に動揺しているが、全国大会を前に、吹奏楽はおろそかにできない。
このダブルバインドに、麗奈は自分の心の置き所を迷っている。
麗奈は怒っているように見えるが、苦しんでいるのである。

久美子は麗奈にかける言葉に迷う。
しかし、最終的には「麗奈のこと、応援しているよ」と伝えることになる。

では、この「応援しているよ」を、あなたなら、どのように芝居するだろうか。

  1. つとめて明るく、気をそらすように「大丈夫、応援してるよッ!」
  2. 優しく、さとすように「ね、応援してるよ」
  3. 立場上、苦しそうに「でもね、応援してるよ……?」

さぁ、どれだろう。

「応援してるよ」

では、黒沢ともよさんの実際の芝居を観ていただく。

観ていただけただろうか。
おわかりのとおり、この芝居は、事前に挙げた3つのいずれでもない。

久美子はまず奥さんは亡くなっていることを告げ、
おどろおどろしく不気味な「応援してるよ…」で言葉を結ぶ。

このシーンについて、順を追って考えていこう。

久美子は「こんなこと言うと、また性格悪いって言われるかもだけど」と口火を切り、
落ち着いて聞いて、と言うかのように麗奈の手に、自分の手を重ねる。
そして「もう、奥さん、いないんだよ」と、熱さも冷たさもない調子で告げる。

久美子の「いないんだよ」の口調から、
離婚でも別居でもなく、死別であることが麗奈にも伝わる。

ここでは、次の瞬間の麗奈に注目することで、
なぜあんな沈鬱な「応援してるよ」になるのかわかるだろう。

麗奈の心情に寄り添った久美子の芝居

麗奈の絵と声は、次のように推移している。

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1.言われたことが一瞬理解できない

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2.理解し、表情が驚きのかたちになり始める

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3.一瞬、「だったら、まだチャンスあるんじゃないの?」という表情が顔を上半分に見える
  ※この嬉しそうにも見える表情は、たった一瞬だ

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4.ギュッと眉根を寄せて、悔しそうに泣き出す

考えれば、麗奈の心情は複雑である。
恋敵はすでに亡くなっているのだ。
まだ自分の入り込むチャンスはあるのかも、と希望が持てる。

しかし、すぐにそんな自分の浅ましさに、自己嫌悪に襲われる。
何より、自分の好きな相手の不幸を喜んでしまったことに、
後悔と、情けなさで、涙がこぼれるのである。

寂しく泣き出した麗奈の手に、自分の指を深く絡め、
ほの暗い声色で、久美子は言う。
「わたし、応援してるよ……」

久美子と麗奈は、山中に死体を埋めた共犯者である

久美子は麗奈の心情を先回りした言動をしている。
奥さんのことを告げたあと、麗奈の性格なら、さらに自責の念に駆られるだろうと。

だから、この「応援してるよ……」は、
「私も、麗奈の、その浅ましい感情の、共犯者になってあげる」の言い換えなのである。

さて、これを念頭に置いて、もう一度映像を観ていただきたい。
※後半部分だけ切り出し直してあります。

いや、更に言ってしまえば、
久美子と麗奈は、夜の山中に、綺麗な夜景を見下ろしながら、
いわば仮想的に奥さんを殺して埋めた」のだ。

だから、久美子の口調はあんなに昏(くら)くて、優しくて、
そして、魔女のような滑らかさを帯びているのである。

上手い芝居はヤバい

いや、この芝居を聴いたとき、僕は「ウワッ、かなわない」と感じた覚えがある。
これだけ濃密なやり取りを、ハナから字面のセリフで伝えようとしていないからだ。

絵の調子や、画面の温度や、そしてキャラクターの口調や含んでいるものを使って、
どうか視聴者の内側で汲み取ってください、という制作者の前のめりの姿勢。すさまじい。

書いてきたとおり、このシーンは制作に関わっている人全員がベストワークを出しており、
それを一人の功績に帰することは本意ではない。

ただ、このシーンの久美子を、黒沢ともよさんが演じていなかったら、
全く違う調子のシーンになっていたのではないか、という感じは、間違いなくあると思う。

さて、この記事では、声優さんが見せる個々のシーンの芝居のうまさを、
どうにか抽出して伝えられないかと試みてきた。

キャラクターの人生は、視聴者の人生とは明らかに違うものだ。
しかし、そこを通じ合うことができる、細い「橋」があると考えられないだろうか。

声優さんは、そういう橋を慎重に渡って、
キャラクターが独自の人生を、独自の価値観で確かに生きている、生きていくことを、
まざまざと伝えてくれることがあると思う。

この記事では、その感動を、どうにか伝えたかったのです。

本日は以上です。

*1:リアリティについて、一番好きなエピソードを紹介したい。 映画『冷たい熱帯魚』に、連続殺人犯が死体の骨を処分するときに 醤油をジャバジャバ掛けてからドラム缶で焼くシーンがある。 もちろん、近所から匂いで怪しまれないためだ。 「現場」のリアリティに満ち満ちた描写だが、これは制作者が独自に考えたフィクションらしい。