赤いリボン・目玉焼き・渡り廊下 ~ 『魔法少女まどか☆マギカ』TV版の構造解析~(23000文字)
目次
- はじめに(この文章のねらい)
- 方法1:一見、意味のないシーンが存在する理由を考える
- 方法2:作品は「反対意見」に応えなければならない
- 『魔法少女まどか☆マギカ』第1話 Aパートへの着目
- ◆第1節◆
- TVシリーズの3ブロック構成の確認
- 物語とは主張をより強く伝えるために最適化された手段
- ◆第2節◆
- 第1話Aパートには全てがある
- 主張A:赤いリボンの導き
- ◆第3節◆
- 反論B:目玉焼きのタブー
- ◆第4節◆
- 本作における「物語上のタブー」とは何だったか
- 渡り廊下とは、意志が試される場所
- ◆第5節◆
- 再反論A’:再度の赤いリボンと「願いを否定し続ける」こと
- 各魔法少女にとって、まどかの救いとは何だったのか
- ◆第6節◆
- まどかとほむらの考え方のズレ
- ほむらが戦い続けられることを強いられる1つの理由
- おわりに(『叛逆の物語』についての示唆)
以下は、2014年5月に身内の同人誌(重版予定なし)で発表した同名の記事を、ブログ用に加筆・修正したものです。(当時の告知記事)
はじめに(この文章のねらい)
この文章は『魔法少女まどか☆マギカ』のTVシリーズ(全12話)のうち、特に第1話Aパートの描写にクロースアップすることで、作品全体の構造を解析します。
ここでの「構造を解析する」とは、ストーリーをかたちづくるいくつかの大きな要素が、ストーリー全体に対してどのような役割を担い、かつどのような効果をあげているのかを、考えることです。
さて、今回『まどマギ』の分析をするにあたって、とった方法論は2つあります。
方法1:一見、意味のないシーンが存在する理由を考える
ひとつめは、「それが何度も登場した理由を考える」です。
キャラクターにも、それまで生きてきた人生があります。朝起きて、服を着て、朝飯を食べたはずです。しかし、多くの作家はそれらを全て記述することはしない。
であれば、もし「赤いリボン」をつけるシーンが、キャラクターの人生の中から特にピックアップされたということは、作り手には、そこをとりわけ描写すべき理由があったはずです。
もし「目玉焼き」に関するシーンが何度も、同じように登場するとしたら、そのシーンは何か、特別な意味を持っているのではないか。
「渡り廊下」はどこで、何回登場したか?
それらのシーンをピックアップし、似通っている場所、もしくは似通っているようで実は違う場所を探すことで、作品全体が、それらのシーンをどのような構造のどのようなポジションに埋め込んでいるかが、自ずと明らかになっていくはずです。
方法2:作品は「反対意見」に応えなければならない
作品には「テーマ」があると言います。しかし、それは「作者が最も主張したいこと」というよりは、「ストーリーの構造がかたちづくる一連の議論の流れ」をテーマと呼んだほうがしっくりきます。
ここで重要なのは、説得力のある物語の中には、ある意見(テーゼ)に対する「反対意見」(アンチテーゼ)が登場するはずだということです。
もし第1話で主人公が掲げた主張がそのまま難なく最後まで通ってしまったとして、それは本当に強い意見でしょうか。僕らが鑑賞中に抱く「あれ、でも○○の場合は、その主張を通すのは難しくなるぞ?」と
いう不埒な考えは、物語内で払拭される必要があります。
主張を強めるのは、反対意見に対しての反論です。であれば、テーマと思われるものに対する反論、対となって現れるものは、その作品のテーマである可能性が高いのではないか。これが2つ目です。
『魔法少女まどか☆マギカ』第1話 Aパートへの着目
本作第1話のAパートには、上の方法1および方法2を確認するための、全ての材料が揃っています。Aパートに登場するものを、要素の属性ごとに分類し、関連するものと比較したとき、『魔法少女まどか☆マギカ』がテーマと思われるものが浮き上がってくるように思います。
次の段落から、論旨の本文となります。
■以降のネタバレについて
ここからあとの文章はTV版全話を視聴している前提で書いていますので、まだご覧になっていない方は、ぜひ最後まで視聴してから、読んでいただければと思います。なお、劇場版新編『叛逆の物語』については、最後の節で曖昧な示唆を提示するに留めています。