アニメソングの「キラーフレーズ」 (ゆゆ式 Advent Calender 11日目)
キラーフレーズ、てあります
こんばんは。今日はアニメソングの話。
オープニングテーマ、エンディングテーマ曲って、アニメ本編に1回流れますよね。1クールなら13回。
で、13回って意外にハードル高い。自分のiTunesの再生回数でソートしてみると、13回以上聴いてる曲って、全体の1割だった。だから、ひとつの曲を13回も聴く機会って、多分、なかなか無いんです。
で、13回も聴いてると、どこかで引っ掛かる、耳に残るフレーズが出てきたり。そういうのを僕は「キラーフレーズ」と呼んでるんです。
たとえばこれ。↓
『ゆゆ式』オープニングテーマ「せーのっ!」
歌:情報処理部(大久保瑠美、津田美波、種田梨沙)
作詞・作曲 - ふわりP
そよ風になびく髪が カバンのそばをおよいだ
終盤、崩した拍子の静かなパートに入る前のワンフレーズ。僕は今回、このフレーズを紹介するためにこの記事書き始めたんです。
ここ、自分が持ってるカバンの近くに、揺れる髪の雰囲気だけを感じる、というイメージがある。ホントいい。
「カバンのそばをおよいだ髪」って、縁ちゃんの髪ではないのか。多分そうやで。
ところで、「せーのっ!」の歌詞ってめちゃくちゃ難しいと思う。だって、全フレーズが隠喩とか擬人法みたいなもので出来ているんだものな。
「明日をのぼって」「あかりが手をつないだ」「小石がおいかけてく」とかね。
ただ、何回も読んでみると、ちょっと風合いの違うフレーズがあることに気付かされる。
たとえばこんな感じだ。
A-1.「カバンがそよ風におよいで 吹きぬけたあとを」
A-2.「何度目かのチャイム 校庭のくもが 時計に流れて歌う」
この部分、詳しく見てみると、A-1の主語>述語は「カバンが泳いで吹き抜ける」となる。すらすら読める文章なら「そよ風が吹き抜ける」なんだけど、敢えて主語と述語の自然な関係性を、言葉のシャッフルによって崩しているように見える。
A-2の主語>述語も「くもが歌う」だ。もしかしたら「チャイムが歌う」とか「時計が歌う」ということかもしれない。でも「くもが流れて歌う」なんだな。語の入れ替えというより、複数の文章をまぜこぜにして、ひもとつの文章にしてしまっているという感じだ。
次の2つはどうだろう。
B-1.「ななめにそそぐ陽は 今日もほほえんで 小道をまがった香りを やさしく包みこんだ」
今度は目的語に着目しよう。B-1は「香りを包みこんだ」となるけど、香り「が」包み込むの方が語義的な結びつきは強い。でも、そうではない。
もう少し違った視点から。
C-1.「景色は心をえがく」
ここまで来れば、おぼろげに形が見えてくる。C-1は「心が、景色をえがく」のほうが語順としてはすらっと流れるかもしれない。
恐らく「せーのっ!」は、主語と述語、目的語と述語、主語と目的語の語義的な関係性を敢えて組み換えたり、入れ替えたりすることで、語と語の関係性を解体、というより緩やかに解きほぐすことで、どこかニュートラルな、言葉の空間、のようなものを示しているような感じを受ける。
歌詞の中では、動作や情動は抑えめにされており、むしろ風景や道にあるものを数えていくような、素朴でシンプルないろいろが淡々と言い重ねられていく。その中で「笑顔がてらす『○』がきっと 見えるはず」というサビ前の歌詞の「○(まる)」が特異点のように浮き上がってきた。
無粋ながら言葉にすれば、「○」とは「良さ」のような、きっとポジティブな何かなのだろうと想像される。
しかしそれは「良さ」のような、感情や情動によって左右されたり、言葉や文字にできるようなものではなく、朴訥とした言葉が降り積もったところに、少しの間だけ立ち現れる「状態」のようなもので、意識した途端に消え去ってしまうものなのではないかな。
きっと「○(まる)」はこの歌詞における中心でありながら、同時に「空(くう)」のようなものなのかもしれない。
それはたとえるなら、ドーナツの穴のようなものだ。ドーナツは「ドーナツの輪っか部分」と「ドーナツの穴」で構成される。「ドーナツの輪っか部分」を食べたあと、本当なら「ドーナツの穴」は残るはずだ、僕はドーナツの輪っか部分だけを食べたのだから。ドーナツの穴はどこに消えたのだろう。
勿論これは、問題の立て方が間違っているのだが、言いたいところのニュアンスは伝わるかもしれない。
まとめてみよう。「せーのっ!」は、語と語の関係性をゆるく引き離していくことで、人の動きや感情を抑えめに、見えるもの感じるものを素朴に数えあげていく。その中でおぼろげに見えるような、焦点を合わせれば消え去るような「○」を、聴く人はふわっと、瞬く間だけ見るような、そういう歌詞になっていると思う。
そして、そういう歌詞は『ゆゆ式』という作品のある意味カナメになる所をうまく押さえようとしているように思えるし、僕はこの曲のそういうところを気に入っているんじゃないかと考えたのだった。
iTunesの再生回数、「せーのっ!」は104回でした。8クール作れるね。
なお、本記事は「ゆゆ式 Advent Calender 2014」の11日目として書かれたものです。次のリンクから辿れば、ゆゆ式記事が既に10コンテンツ、更に14コンテンツが投稿される予定という、ゆゆ式祭りです。よろしくお願いします。
さて、以下では僕が「キラーフレーズ」だと思っているアニメソングのワンフレーズを他にも9個集め、併せて10選にしてみました。
『異能バトルは日常系のなかで』オープニングテーマ「OVERLAPPERS」
歌:Qverktett:||(山崎はるか、早見沙織、種田梨沙、山下七海)
作詞:畑亜貴
作曲:藤田淳平(Elements Garden)
待っていつのまにか
それさえも楽しんでいるよ(OVERLAPPERS)
だからときめいた秘密のなかで
触れ合いたくなった ねえどうしよう?
サビの第2パッセージ以降からのフレーズ。
「まって いつのまにか」「だから ときめいた」「なった ねえ」など、ずらずらっと抑揚の少ない言葉が並ぶんだけれども、そこが平熱っぽくて心地よいわけです。あと、このフレーズの後ろでキュロキュロ鳴ってるギターが天才。
『天空のメソッド』エンディングテーマ「星屑のインターリュード」
歌:fhána
作詞:林英樹
作曲:佐藤純一
ああいつか終わりの日が来る
そう感じさせるよ
initialize その扉を
開ける時が来るのだろう
綺麗な時を閉じ込めて
湖に沈めたの
「喜びとか 言葉をわかちあうとき」に続く「いつか終わりの日がくる」という結構ガツンとしたサビなんだよね。
そこに「イニシャライズ! その扉を」とバリっとした言葉が続く力強さが良い。
fhánaは女声メインボーカルなんだけど、ヘンに巻いたりせず、すげぇまっすぐな発声をされるんだよね。そこがめちゃくちゃカッコいいね。
再生回数は19回。
『ハナヤマタ』オープニングテーマ「花ハ踊レヤいろはにほ」
歌:チーム・ハナヤマタ
作詞:畑亜貴
作曲:田中秀和(MONACA)
いろはにほパーッとパーッと晴れやかに (ハイ)
咲かせる想いはつねならむ
だって乙女道は風まかせだと…つぶやいてみた…乙女心さ!
畑さんらしいギミックっぽいサビから、後半部分をセレクト。
「いろは歌」からの本歌取りが目を引くけど、「乙女とは」だと思ってたら「乙女道は」だからね。畑さんは「まさかこうは歌ってないだろう」というのが正解である頻度がやけに高い。
畑さん、アニメソングは基本的に「曲先」ってツイッターで言ってらしたね、この情報は本当に興味深い。
バックでやりたい放題のエレキベースも超かっこいい。「乙女道」と「乙女心さ!」で被ってるんだけど、歌詞ってこういう冗長さも必要だと思うんですよ、繰り返すから。
再生回数は18回。
『ラブライブ!』挿入歌「ススメ→トゥモロウ」
歌:高坂穂乃果(新田恵海)・南ことり(内田彩)・園田海未(三森すずこ)
作詞:畑亜貴
作曲:河田貴央
Let's go 変わんない世界じゃない
Do! I do! I live! (Hi hi hi!)
畑さんが2つ続いた。「事実上の園田海未」の異名をとる(とらない)畑亜貴さん。
「かわんないせかいじゃない」と、「ない」を重ねてるんだよね。二重否定で強い。
今聴いてて気付いたけど、ここから母音「ai」の言葉をなんと8回も含めている。
頭韻とか脚韻とかそういうレベルじゃない。踏みまくりである。
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』オープニングテーマ「カラフル」
歌手:ClariS
作詞:渡辺翔
作曲:渡辺翔
無限に広がる空の下集まった
願い守り進めば
まだ誰も知らない明日へと
『叛逆』OPからサビ中盤から終わりまで。
「したあつまった ねがいまもりすすめば」という、フレーズの最後にア行を重ねてからの、オ行。
これ、すごく落ち着いた歌詞なんですよね。
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』エンディングテーマ「君の銀の庭」
君は気付いていたかな?
ほんとのことなんて
いつも過去にしか無い
未来や希望は全て
誰かが描く遠い庭の
我が侭な物語
「君は気付いていたかな?」という問い掛けから始まる衝撃の真実。「気付かなかった…」としか言えない。
『ウィッチクラフトワークス』オープニングテーマカップリング曲「Saturday Night Witches」
歌:KMM団
作詞:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
作曲:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
そ〜〜〜〜〜だよっ!『イマジネーション!』
Owara-Night 気づいた? 言葉は魔法
いまだけだよ、奇跡はおきちゃう
平均年齢…まだね、ティーンズなんだもんっ!
なんてカロリーの高い歌詞だ。「終わらない」を「Owara-Night」だからね、サザンオールスターズが「hold me tight」を「アホみたい」と発音するみたいなやつだな。「ティーンズ」って、昭和80年か。
再生回数が42回。EDの『ウィッチ☆アクティビティ』が43回(そりゃED映像で何十回も聴いてるけども)というのを考えると、めちゃくちゃ聴いてる。知られざる名曲なのでぜひ。iTunesの配信でも買えるよ。
『ご注文はうさぎですか?』オープニングテーマ「Daydream café」
歌手:Petit Rabbit's(ココア(佐倉綾音)/チノ(水瀬いのり)/リゼ(種田梨沙)/千夜(佐藤聡美)/シャロ(内田真礼))
作詞:畑亜貴
作曲:大久保薫
こころぴょんぴょん待ち?
2014年を代表するアニメソングとなった『ごちうさ』オープニングテーマの第一声がこれ。
「待ち?」と尋ねられるからね。下駄箱で「誰待ち?」みたいなアバンギャルドな使い方だ。
それでいながら「待っていたのかもしれない」と思わされるパワーがある。
『アイカツ!』オープニングテーマ「SHINING LINE*」
歌手:わか・ふうり・ゆな from STAR☆ANIS
作詞:こだまさおり
作曲:石濱翔(MONACA)
今わたし達の空に 手渡しの希望があるね
『アイカツ!』2年目のオープニングテーマのサビ中盤から。
『アイカツ!』1年目の最終話は「カレンダーガール」の歌詞のワンフレーズ「思い出は未来のなかに」なんだけども、
2年目のテーマがどこにあるかと言われれば、このフレーズに感じるんだよな。
「わたし達の空」「手渡しの希望」という、距離の離れた言葉の組み合わせを更に繋いでいるのに、ワンフレーズが「これしかない」というひとかたまりになってる。
みんなが選ぶキラーフレーズも聞きたい
たとえば、歌詞が物語になってて、ストーリー性がある歌というのがあると思う。
同じように、アニメソングというのは、全13話のストーリーがついた歌だという見方もできるんじゃないかな。
みなさんの「キラーフレーズ」も教えて欲しいね。
本日は以上です。ポリアネス!