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グズつかない技術「時間割引率」のこと

 行動経済学には「時間割引率」という考えがあるそうだ。僕は佐藤優さんの『人に強くなる極意』という新書でこれを知ったのだけど、とてもタメになる話なので共有したい。

時間割引率 = 時間による価値の目減りの割合

 時間割引率とは次のようなものだ。

 10000円を自分の口座に振り込んでもらえるとする。それは今すぐしてもらうこともできるが、一週間後にいくらか増やしたうえで振り込んでもらうこともできる。たとえば、一週間後に11000円振り込んでもらえるなら一週間待とうというAさんがいる。
 一方、13000円くらいにならなければ、とても一週間も待てないというBさんがいるとしよう。

 Aさんにとってお金は、今すぐの10000円と、一週間後の11000円は、同じくらいの価値がある。これは一週間という時間が、当初から9%ほど、お金の価値を目減りさせているとも考えられる。時間によって何かの値段が下がる、価値が割引かれる歩合、これが時間割引率だ。

 一方Bさんに対して同じように計算すると、一週間で目減りするお金の価値は23%。このように、時間割引率は人によっても異なる。AさんよりBさんの方が、より時間的に近いところにあるお金のほうが価値があるのだから、Bさんは自然、Aさんより浪費家に見えるだろう。

時間割引率をリスクの見積もりに応用する

 上の例では利益の価値が目減りする例について話したが、逆に、負の面つまりリスクの評価についても同じことが言える。ここで比較されるのは、今すぐに決断する際のリスクと、そして決断を引き伸ばしたことによって生じるリスクだ。今回はここに注目したい。

 決断を下すのは怖い。これは人の性であり仕方がないと佐藤氏も言う。しかし、物事の中には、決断を先送りすることによってリスクが増大していくものもある。ここでも時間割引率の考えが応用できる。

 未来のある時点で、これから増大したリスクが、現在決断することのリスクを上回る瞬間に、人は決断することができる。
 たとえば、電気料金の支払いを怠っているうちに、このままだと電気を止めると連絡がきた。たとえばAさんはここで、コンビニで電気料金を支払ってしまうことの面倒くささと、今はまだ具体化していない危険であるものの、着実に増大しつつある、いざ電気を止められてから手続きをする面倒くささを秤にかけて、後者の面倒くささが勝った。Aさんは支払った。

 しかしBさんはまだ支払っていない。BさんはAさんよりも時間割引率が高いため、Aさんよりも未来のリスクを過小評価しているのだ。
 このように考えると、BさんはAさんより、未来の約束や集合時間に対して、ルーズに見えるだろう。

決断のタイミングの早い/遅い

 このように、時間割引率の考えをとると、人によってどうして行動の早さや優先度に違いが出てくるのかわかるだろう。
 もちろん、ギリギリまで状況を見極めてから行動したほうがいいこともある。敵が遠くにいるうちに、プレッシャーに負けて引き金を引いてしまい、射程距離に入ってきたころには弾を撃ち尽くしてしまっていては元も子もない。

 しかし多くの場合、決断は遅かった時のほうが後悔は大きいはずだ。

決断が遅すぎる場合の2パターン

 結果論で言えば、決断が遅すぎた場合の原因は、次の2つしかない。

 ひとつは今現在のリスク評価が高すぎることだ。決断することのリスクが高すぎると、それに釣り合うまで決断は引き伸ばされ、結果的に未来で支払うことになるリスクが高くなる。

 ふたつめは、未来のリスク評価が低すぎることだ。時間割引率が高すぎるため、未来のリスクは過小評価、あなどられることになってしまう。

 しかしこのどちらも、今現在見えているものに対する評価が、未来のそれに対する評価に対して、高すぎる・バランスがとれていないという意味では共通している。

決断することの不可避の不安

 決断するのが怖いのは、未来を見据えて検討するということ自体が、不安を生むからだ。

 たとえば僕らは決断を保留しがちだ。しかし、一週間後の自分は、今日の自分が判断を保留したことを恨むかもしれない。
 時間割引率によって価値が下がっていく対象は、実は、自分自身も例外ではない。少し先の自分を、現状より少しでも大切にしてやることで、僕らは「判断しそこなった」という後悔を減らすことができると思う。

参考資料: