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真夜中と日差しの夢 ~『アイカツ!』神崎美月の5年3ヵ月~

目次

真夜中の時代

 神崎美月というアイドルが活躍したのは、マスカレードの時代が遠く過ぎ、いちご・あかりの時代にはまだ少しだけ早い「真夜中の時代」ともいえる時期だ。
 きっと人々は、いちご・あかりの時代を「最も幸せな時代」として振り返るだろうし、そして神崎美月についても「もしも、生まれるのが2年遅かったら」とも言うかもしれない。しかし本当に美月が2年遅く生まれていたら、いちごも、そしてあかりも、スターライトには入学していない。
 この文章は『アイカツ』本編を、神崎美月の「夢」を軸に整理していくものだ。

美月の性急な夢

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 星宮いちごが登場した1話時点で、美月は既にスターライトクイーンを2連覇した、トップアイドル中の(略)トップアイドルである。しかし、その口から真っ先に出てくるのは「早く私の所まで のぼってきて」という懇願の言葉なのである。劇場版でいちごがあかりにかけた言葉は「時間かかってもいい よじのぼっておいて」であったことと比べると、美月の切迫感というか、一種の性急さは際立っている。
 ここから始まる美月の「性急さ」は、本作を貫く軸になる。美月は登場当初から、何かを性急に追い求めているように見える。それは徐々に美月の口から「夢」というキーワードと共に、少しずつ語られていく。

美月の発言のねじれ

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 美月はたびたび「アイカツを盛り上げたい」という印象的な言葉を口にする。91話で美月は「アイカツで日本中を元気にしたい」と語るし、100話でも次のように言っている。

ステージに初めて立った時から
ずっと願っていました
私が歌うこと 踊ることで
1人でも多くの人に幸せな気持ちになってほしいと

 ただ、その全てが彼女の夢の本音ではないかもしれない。1話に続き、2話で美月はいちごに「来られるかな、私のところまで」と言い、16~17話の共演を経て、28話では次のようにアプローチし、自分の思いと未来を宣言する。

私はね このフレッシュガールカップを通じて
将来組む相手を探しているの
それは あなたかもしれない

 28話のラスト、美月はいちごの可能性を確認し、次のように伝える。

確かに星宮は 今すぐ私が組む相手じゃない
けれどスッポンのように
このまま私に食らいついてこられるなら
星宮いちご あなたは太陽になれるかもしれない

 ここで最も注目すべきは「太陽」という言葉だ。ここで美月はいちごを、自分とは異質なものとして感じ始めているように見えるのである。美月の思惑は、少しずつ、その軌道を変え始める。

同じだけど、確実に違う空

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 美月の時代は「真夜中の時代」である。美月という月が夜空には燦然と輝いており、他の星の光は影をひそめてしまう。美月は、夜空で自分のように輝く星を探している。それは33話から始まるトライスター編でも明らかだ。
 33話のイメージシーン、階段を駆けのぼる美月の周りには誰もいない。美月は「私に見せて… 新たなスターの輝きを…」とつぶやき、「Take Me Higher」でも「どんな惑星だって ひとりぼっちで 輝けるわけじゃない」と歌う。

 美月は、自分と同等の実力と個性を併せ持つようなメンバーとユニットを組むこと、その夢を叶えるため、トライスターのオーディションを仕組んだ。37話、美月は、蘭の離脱によって挫折した自分の夢を、蘭に宛てたメールの中で、次のように語る。

私の夢で あなたの夢を
振り回してしまってごめんなさい
いつも夜空からあなた達を見ています
行く道は違っても お互い同じ空で輝きましょう

 美月は自分のいる場所を「夜空」と語り、そしてそこが、蘭やいちごたちのソレイユ、太陽が輝く昼の青空とは、別の空であることに気付くのである。美月は自分の夢を叶えるために、蘭に対して、自分のそばで輝くことを望んでしまった。
 美月のさんざめく刃のような夜空と、いちごの等しく降りてくるような青空。ふたつの空は美月の言葉どおり、確かに同じ空であるが、しかし、明らかに違う空である。
 自分の空と、星宮の空は、一緒ではないと、美月は気付く。45話で美月は、いちごに次のように伝えている。

いちごを見て思った
私たちは違うって
違う輝きをしてる

美月といちごの違えた道

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 美月といちごの道が決定的に違えたのは、皮肉なことに、同じユニットとして行動した、スターアニスでの経験だった。美月はおそらく蘭との経験もあり、プロデューサーとして自分に不足している部分に気付き、スターライトを離れ、ドリームアカデミーのブレインへと転身する。
 反対にいちごは、個としてのアイドル、個としての自分自身の突き詰めるため、アメリカへ渡り、新しいセルフプロデュースの道を自ら模索していくことになる。

 45話ごろのタイミングにあって、美月といちごの進む道の違いは決定的になっている。美月はそれに自覚的であるが、しかしいちごのマインドは、美月に憧れ始めた初期とほとんど変わっていないようにも見える。プールで遊んでいるいちごは、次のように、おずおずと美月に申し出る。

あの…また一緒に何か…
スターアニスでも なんでもいいんですけど…
私 また美月さんと…

 美月は上の質問に「いつかね」とにべもない。続いて「いつか太陽のようになって、私と同じ空で輝いて」と言い、いちごは「追いつきます!」と力強く返す。美月は「待ってる」とだけ言って、ウォータースライダーを滑り降りていく。美月は蘭のときと同様「同じ空」という言葉を使うが、しかし実質の意味は逆だ。夜空と青空、私たちの輝く場所は違うけど、しかし同じアイドルの空であることは忘れないで、と。
 美月は、自分がいちごとユニットを組むことはないだろうと、この時には、ほとんど確信していたように見える。

78話の衝撃

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 1年が過ぎて、いちごは帰国する。そして、美月の足取りがわかるのはセカンドシーズンも後半になってからだ。美月はユニットを組んで再デビューすることをいちごに告げる。78話、冒頭の会話は、いちごと美月が組むことはもうないのだと気付かされる、衝撃的なものとなる。

次のステージで私の隣にいるのは
確かにいちごじゃない
でもあなたは私にとって…
あなたにもきっといる…
運命のパートナーが必ず…

 美月にとって、いちごは自分の可能性そのものだった。
 最初は小さな予感であり、また学園長のさりげない導きによるものでもあった。しかし美月はいちごを教え導く中で、自分の夢が次々に具体的な形をとっていくのを感じていた。そしていちごを通して、他の光輝く後進たちが、自分と一緒に歌い、踊る夢を見た。
 美月にとって、いちごの存在は、世界と関わるためのドアでさえあっただろう。しかし、美月といちごがパートナーになることはない、それだけは確実なのである。
 いちごは美月の言葉に戸惑い、わけもわからず、美月をとどめようとするが、美月は煙に巻くような言葉を残して去ってしまう。

みくるが見出した美月

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 みくるは偶然、美月の人生に登場する。
 アイドルに生まれついた美月の運命のパートナーは、アイドルではないみくるだった。美月がプロデューサーとして、一般人であるみくるのアイドル性を見出したのだと、そういう風に人々は捉えるだろう。

 しかし、実際のエピソードを拾えば、逆に「美月がみくるに見出された」のである。大きなコンテストやオーディションを開き、様々な方法で自分のパートナーを探して果たせなかった美月は、楽屋に花を届けにきたみくるに、自分の知らない自分自身の可能性を指摘される。それはまるで、いちごにアイドル性を見出された、あかりのようにだ。

 本作には、アイドルとは「星」であるというアナロジーがある。その中にあって、みくるは唯一の、地上の人だ。「神崎美月」以外の美月を見つけたのは、アイドルではなかったのである。
 美月は、みくるにプロデュースされて、再デビューを果たす。美月はみくるのおかげで、もう一度、「神崎美月」以外のアイドルとして生まれ直すことができるのである。
 美月のみくるに対する深い愛情は表面化することはない。しかし、101話でフェレッ太を通してしかみくるへの愛情を表現できない美月は、「(引き留めてしまうかもしれないから)見送りなんて行けないよね フェレッ太」と声をかけて頬を寄せるのだ。

101話を終えて美月に残った夢

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 美月の夢は、99話のラストで完結する。
 みくるとの最高のステージを終え、楽屋で息をつく二人。みくるは感極まって、美月に抱きつき「ありがとう」と伝える。美月は黙って抱擁を返し、涙を流す。美月が涙を見せるのは、この一度きりだ。美月の夢を一緒に叶えてくれた、みくるへの感謝の涙である。美月は2wingsとの対決を終えたあと、次のように、自分の夢がなんだったのかを語る。

最高の舞台で 最高のライバルと
最高にアツいアイカツをする
私の夢が今日 叶いました
でも アイカツは終わりません

 この言葉をそのまま納得するのは保留したい。
 上の言葉は、美月の思いのすべてを述べているわけではないように思う。なぜなら、美月はライバルである2wingsのステージを待たずに、自分の夢を満足させてしまっているように見えるからだ。
 ここまで確認してきた文脈を考えれば、美月の夢とは、自分がずっと追い求めてきた運命のパートナーと、最高のステージをすること、そこに一番重い部分があったのだと思う。だから、美月はみくるとのステージを終えたあと、涙を流すのだ。
 実のところ、100話で語られる美月の言葉は、けっして嘘ではないのだが、少し屈折した思いがあると感じる。たとえば、次のようにファンへの感謝を語る部分。

そして今 こんなにも沢山の人達が
私達のステージに足を運んでくれて
私達の歌で 踊りで 笑顔になってくれた
それが何よりも嬉しくって

 対して、劇場版のラストで、美月がトップアイドルの苦悩をいちごに語るシーンでは、ファンへの思いは、次のように後景化されている。

ずっと私はアイカツを盛り上げたいと思ってきた
私にいるべき場所をくれたアイカツ
その目的は果たせたと思う

 トップアイドルとしての美月をずっと駆動させてきたのは、一種の使命感だったのである。

私はトップアイドルとしていつでも上を目指した
1位でい続けることによって
みんなを引っ張っていくのが
使命だと思うようになった
そして気付いたときにはその高みから
自分で降りることができなくなっていたわ

 美月はいつも「アイカツを盛り上げたい」と語ってきた。それは「目的」ではあったが、夢ではなかったということだ。最高のパートナーと最高のステージをするという自分の夢を叶え、いちごの躍進によって、時代の節目を感じている美月は、101話時点で、残っている夢は、たったひとつしかないのである。

「あなたに奪われたいの」

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 100話、ステージを終えたいちごは「ゴールの先には新しいスタートがあるんです!」と言う。美月はその言葉にハッとさせられる。美月はみくるに、次の夢を訊かれてこう返す。「それは…いちごに期待ね」と。
 その真意は、劇場版になるまでわからないが、「私の夢が今日叶いました。でも、アイカツは終わりません」という言葉が含んでいる「神崎美月の終わり」からは察せられるだろう。劇場版で美月は、いちごに次のように、引退の決意を伝える。

私はあなたを待ってた
今思えばあなたを初めて見たときからずっと
トップアイドルを譲るわけじゃない
あなたに奪われたいの

 1話から40話弱ごろまでの美月のいちごへの思いは、確かに「早くここまでのぼってきて、私と運命のパートナーになって欲しい」である。しかし、ここに至って美月の思いは「早く私に引導を渡して欲しい」という悲痛なものに変わっている。しかし、みくるを見送った美月にとって、それはたったひとつ残った、最後の夢なのだ。

1人分の人生は1人分の人生では足りない

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 劇場版によって、美月の物語の本編は、ほとんど完結する。しかし、その思いの残滓は、別の話数でも不意に顔をのぞかせる。
 最もグッときてしまうのは、178話(最終話)で、いちごを追いかけるあかりに対してかける「大空 いちごを必ず捕まえなさい」という、美月が本編で発する最後のセリフである。この言葉が、これまでの文脈を踏まえると、まるで「いちごには自分のような思いをさせてくれるな」と言っているように聞こえて仕方がないのである。
 いちごとあかりの真剣勝負のさなかにあって、あかりはスタート以後、誰とも目線を交わさずに前を走るいちごだけを見つめて走っていく。しかし、一度だけ足を止めて振り返るのが、上の美月のセリフに対してだ。
 劇場版ラストで美月の想いを知ったあかりには、この美月の言葉が、重層的で特別な意味合いを持つ言葉だと理解できるからこそ、足を止め、振り返り、頷くのだ。

 考えてみれば、あかりがいちごに追いつくまでに、76話~178話の2年間が経過している。しかし、いちごが美月に追いつくまでには、バックストーリーの2年間+1~50話+1年+51~112話&劇場版という、長い長い5年3か月があったのだ。

 いちごも、自分が美月のパートナーになりえなかったことに、忸怩たる思いはあるだろう。
 いちごも、もちろん美月も、人生を猛スピードで走り抜けながら、はたから見える以上に、そして最も欲しかったと言えるほどのものを、知ろうが知るまいが、ぽろぽろと、取り落としていく。
 そういう意味では、実のところ、本作においては「何かを得る」というより「何かを失える」ということの方が、メインキャラクターの一部だけに許された特権だったように思えるのだ。
 美月は自分の夢で誰を振り回し、いろいろな可能性を断念し、望みを失ったと思えば救われ、奪われたと思えば与えられていた。きっと1人の人生は1人分の人生であるだけでは足りないのだ。全てを拾えるわけではないし、ぎりぎりになるかもしれないけども、それはアイカツであると同時に人生そのものであるし、美月の物語は、確かにひとりの人間の人生だった。

アイドルの輝く空

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 いちごと美月の物語が最も象徴的に完結するのは、177話ラスト、キャラクターも映っていない、ただの、空を写したカットである。
 スターライトクイーンとなったあかりは、その翌日も天気予報のために4時に起き出す。あかりは軽快に玄関から駆け降りる。水蒸気が残る、春の夜と朝の境目に立ち、さっと空を見上げる。直後、カメラはあかりの主観ショットとなる。カメラのフレームは大きく弧をえがくように、朝側の空から夜側の空へと向かう。あかりは「今日も晴れそう!」と楽しそうに笑い、駆け出していくのだ。

 美月の夜空と、星宮の青空。
 美月は、自分といちごの道は二度とは交わるまいと気付き、ただそれぞれの空で輝くと決めて、いちごの元を去った。しかし、2人の空が、やはりひとつの空であることだけは信じていた。
 美月のいる空と、いちごがいる空が同じ空であると2人に示したのは、あかりだ。あのとき、輝くための同じ空を持たなかった、2人の物語は、あかりの見上げる、ひとつの空の内側に、きらきらと輝いている。
 この空は、本当に、ほんとうに美しいと思う。

最後に

 美月について、ずっと書きたいと思っていました。

 セカンドシーズンの終わりあたりで、きちんと決算しておかないといけないなと思っていたんですが、結局、同人誌を作ったタイミングでペーパーに打ち込むことになりました。
 美月は表情に感情を出さないし、嘘にならない程度であれば、本当のことを話さないこともあるし、いちごに対しては甘えるし、子供なのに大人として振る舞おうとするので、損をしがちな人なんです。そういう美月は、たくさん失敗するし、発言も筋が通っているようで、実はブレているところもあったりで。
 そこが美月が、一回性のある人生を生きていると感じられるところでもあり、好きなところで、月影さんもしくはかえで視点で美月を見ていると、本当に放っておけない人です。
 読んでくれてありがとうございました!

以上の文章は『アイカツ!オンリーイベント「芸能人はカードが命!13」(7/16)プ66スペースにて無料配布したペーパー「美月の夢の開くとき ~『アイカツ!』神崎美月ファンペーパー~」を改題したものです。

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 『アイカツ!オンリーイベント「芸能人はカードが命!13」(7/16)プ66で頒布しました漫画同人誌『消えないみちしるべ』(全36ページ)に、脚本として参加しました。
 お話しの内容は、天羽あすか先生と天羽まどかの「SHINING LINE*」であり、また同時に『アイカツ』を視聴していた僕らのいる場所にも「SHINING LINE*」は届くのかどうかを、僕らなりに突き詰めたものです。

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